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「ねえ、御苦労なこつた」
と気のない返事をした。
「いや、どうも。――この男は私のごく懇意な者ですが、酒癖がわるいので、まあ今夜のところは大目に見てやつて下さい」
今その文太郎が県会の視察旅行に出ていたので、法事の主人役は直造に廻つたのである。だが、文太郎はかういふ町内づき合をあまり好んでいなかつたから、たとへ在宅だつたにしても、直造は主人役を買つて出たであらう。
「な」の字さんもわたしも足を止めながら、思わず窓の中を覗のぞきこみました。その青年が片頬かたほおに手をやったなり、ペンが何かを動かしている姿は妙に我々には嬉しかったのです。しかしどうも世の中はうっかり感心も出来ません、二三歩先に立った宿の主人は眼鏡めがね越しに我々を振り返ると、いつか薄笑いを浮かべているのです。
と、加藤巡査は声を落した。彼は、さきほど事が容易でないと思つたから、とり敢あへず本署に電話をかけた、署長はじめ自動車で来ると云つていたから、まごまごしているうちには着くだらう、さうなるとこのまゝでは納をさまりがつかなくなる、怪我人を出さぬうちに事が静まるのは自分の望むところであるし、皆さんの方もいゝではないか――。
「いや、どうぞ構はんで下さい」
「それに、永い間この土地をはなれていたもんですから、土地の事情にもすつかり疎うとくなりましてね、これは一つ、どうしても今後こちらのお力にすがらないことには立つていけないと思つている次第ですが――」
「ほう、さうか。それはちつとも知らなかつた」
「すみましたよ。さあ。何でもありませんなあ。ぢき起きられますよ。ごく軽いんですからね」
が、それは徳次であつた。
間もなく相沢に案内されて、房一は病室へ通つた。外で見るよりはよほど広い家と見えて、廊下を何度か曲つた末に暗い突きあたりの襖が相沢の手で開かれて、房一がそこに踏みこんだとき、庭の向ふに立つ白壁の方から反射する逆光線の中で、かなりに広い部屋のまん中には床が敷きつ放しにされ、その上にごろ寝したまゝ雑誌を読んでいた息子の市造が、足音で気づいたのだらう、半ば起きかけて、入つて来る者をぢつと眺めているのを見た。
「おい、今高間君が来ていたんだよ」