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    今泉にはやつと徳次の考へていることが判つたので、熱心に説明した。

    「かりに、おれが真正面から反抗的に出て、それがために住みにくくなつたとしても、同じことだ」

    房一は下駄をつゝかけて外にとび出していた。何気なく腕時計をすかして見た。七時半だつた。まだそんな時間か、とびつくりして考へたのをおぼえている。すぐ傍を、人が駆け抜けていた。房一も走り出した。どういふものか、さつきうす暗がりで見たぼんやりした小さい白い時計の文字盤が頭の中で見えていた。走り出した方は真暗らな畑中の路だつた。今、房一の右にも左にも誰とも判らない人が一杯で、腕や肩がぶつかつた。小谷も練吉もいつしよに駆け出して来た筈だつたが、どこにいるか判らなかつた。

    「はあて、神主さんになるのもえらいもんだのう」

    「誰でも主人が出なくてはいけないきめでせう。すると、千光寺さんはどういふことになりますかね。坊主が神主の恰好をするのもをかしなもんぢやありませんかね!」

    「相手は誰です?こゝの御隠居ですかい」

    「それあきまつてる、猟銃だもの」

    この廃坑は旧幕時代の末頃まではまだ採掘されていて、これあるがために河原町は当時幕府直轄の天領となつていた。そして、上流にある城下町の藩主が参勤の途上この河を利用して下る時、天領との間に何か紛争の糸口のつくのを憚はゞかつて、河原町の傍を通る間は舟に幕をはり、乗組の者は傍見をして下つたと云ふ。それほどであつたから、この領内の民は他領との縁組を嫌ひ、他領から移り住む者を許さなかつたし、狩猟とか交通とかその他様々な点で非常な横暴と特権とを許されていたものだつた。

    そのとき、女房に命じて、温泉を加熱する装置を施してもいいか、ときかせると、

    盛子は上から見、下から見しながら、

    川では鮎漁がはじまつていた。

    ――「やあ、おいでなさい。わたし相沢です」

    向ふでも房一を認めたらしい。さう思はれる仕方で、ぐつと速力をゆるめながら、だんだん近づいて来る。はじめは房一の方にこらしていた目を途中で一寸伏せ、又何気ない風にこちらを眺めながら降りて来た。

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