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宿の者はこういっただけで、その以上の説明を加えなかった。伊助の報告もそれで終った。
「いや、どうも」
坐につくとすぐ固苦しい挨拶をはじめた房一に向つて、その気重い調子を払ひのけでもするやうに、老医師の正文は口早やに云つた。
小谷の話で、徳次はすつかり興奮したらしかつた。そのきよろりとした眼はすつかり開けひろげられ、一種上うはずつた色が動いていた。何となく落ちつかない様子で上半身をぐらりとさせ、無意識に片腕を振り降した。そのはずみにひよろ長く生えた雑草に手を伸して引きむしり、それを口にくはへた。
「ふむ。悧巧者だな、お前は」
「訴訟があるさうで、面倒なことですな」
「別に何日からでもないんです。今日からでも――」
この路をそんな恰好で通るのは近くにある営林区署の役人か発電所の技手ぐらいのものだつた。だが、そのいづれでもないことは、段々近づくにつれて目につくあまり見かけない猪首のやうな肩つきと、自転車のハンドルにしがみついたやうに見えるその円まつちい体躯、それらの印象の与へるひどく不器用な乗り方などによつて、すぐと知ることができた。
今泉は調子づいた。
房一はふりかへつた。
「それは、小規模な演習だからして居らん」
「あの、さきほど往診に出かけましたさうで」